・思ったことを言うことは、言いたいことを言うこととは異なる。というより関係がない。
・おそらく、思ってもないことを言わないように心がけることによってしか、思ったことを言うことはできない。
・思うことと感じることとは異なる。感覚を追認することともおそらく異なる。しかし感じないことでは多分ない。
・思うことは考えることとも異なる。しかし考えないことでは多分ない。
・思うという行為は、本来しようとしてするものではない。非能動的に、自然に為される行為を、能動的に、意志的に為そうとする試みは、常に五里霧中を進むような感触を伴う。それは多分、そのような行為の最たるものが生きることであるのと無関係ではない。
・生きること、もとい意志的に生きることとの関係の上で考えられていない全ての事物はもれなく無用である。
・思ってもないことを言うまいとしながら何かを言おうとするとき、立ち上るあらゆる想念に対し「それを思ったか?」という疑義が差し向けられるが、それは喩えるなら暗室のスクリーンに映された映像にスポットライトを向けるようなことで、その答えは常に否となるように思われる。
・思う内容は言えることではありえない。それが言えるとき、それは大体感じたことか考えたことである。
・思うことは、基本的に常に新しく、または別様に思うことである。
・仮にいま、何かを不足なく思うことができたとする。ではそこで、殊更それを言う意義はあるのか。類例として、ある素晴らしい景色に遭遇した際、ただ景色としてあるだけで十分素晴らしいそれを、わざわざ写真に撮ったり、絵に描いたり、詩句にして詠じる意義はあるのか。
・思うために言うことが必要でないなら、言うことは必要ではない。
・思ってもないことなど、言う意義がない。思ってもないことを言う理由は何かしらあろう。意味もあるだろう。価値も。しかし意義はない。
・言えないことを言うためにあるのでない言葉は、少なくとも空気の振動以上のものではない。言えないことを言うために言うのでない人は、少なくとも物質の離合集散以上のものではなく、色と形と運動のパターンの反復以上のものではない。